左手の手首のところが痛くて

盛岡から1時間半も離れた岩泉町からご来院のUさん、40代男性です。

「左手の手首のところが痛くて」といいます。

地元の整形外科で「腱鞘炎」の診断を受けたそうです。
整形外科では湿布痛み止めの服用だけの治療のため、
地元の整骨院で「電気」と「マッサージ」の治療を受けてきたそうです。

「もう、二か月にもなるのに、何も変化がないので来てみました」ということです。

痛みの部位を確認します。
左手の手首、いわゆる「嗅ぎタバコ入れ」といわれる部位に痛みがはしります。

拇指を曲げる(屈曲)すると、そこに痛みが走ります。
また、直接そこに触れても、痛みが走ります。

腱鞘炎の原因は「手の使い過ぎ」にちがいありませんから
お仕事をたずねます。

工場で働いていて、確かに右手も左手も良く使うということです。
けれどももう勤続20年にもなるというのですから、
仕事での手の使い過ぎであれば、これまでにも腱鞘炎を発症していてもおかしくありません。

「何か左手を使うことをしなかった?」

妻と交代で生まれた子を抱っこしてあげています

「5月に3番目の子供が産まれたんですが、
その子の夜泣きがはげしくて、妻と交代で泣いてる間中、抱っこしてあげています。ひどい時には一時間も抱っこしてあげていますので」とUさん。

「なぁ~るほど」です。

以前にもこの「嗅ぎタバコ入れ」付近の痛みを訴える患者さんにきていただいています。その方は、なんと、老犬の病院通いで、毎日獣医さんに通い、待合室で何時間も毎日待っているあいだ、ズっ~と老犬を左手で抱きかかえていたら腱鞘炎になったと話していました。

ですから、赤ちゃんを長時間抱きかかえていても十分、腱鞘炎にはなるはずです。

電話で拇指の腱鞘炎ときいていましたので、解剖学の本を開いて、予習をしていました。

拇指の手背側には
長母指外転筋
長母指伸筋
短母指伸筋があること。

この三つの筋肉が収縮すると(外転させると)手根部背側に
「嗅ぎタバコ入れ」が姿をあらわします。

そして、この三つの筋肉はいずれも
橈骨と尺骨を結ぶ膜、前腕骨間膜から起始します。

上橈尺関節の骨の操法

手の使い過ぎであれば、
これは上橈尺関節の骨の操法は有効であろうな、と推測しておりました。

また、前の週、
私の右手の薬指が曲げられなくなってしまったのでした。

ちょうど仙台操体医学院に行く土曜日だったのですが、
通いの新幹線の中であれこれやっているうちに、無事薬指は曲げることができるようになりました。

この薬指は骨の「快高圧」では上手くいきません。
薬指の基節骨の両側面に手を触れながら、
「快」「楽」または、指の可動域の良くなる方向をさがしながら
ねじって軽い「圧」をかけていくことで、解消することができました。

そんなことがありましたので、
「母指でもなんとかなるさ」と気楽なものです。

はじめは予定通り、「上橈尺関節」の骨の操法です。
「上橈尺関節」から「下橈尺関節」にむけて前腕全体を締めていきます。

締めながら母指を屈曲してもらい、痛みがでるか確認します。
また、締める部位で痛みが軽減する部位があるかを確認してもらいます。

前腕の尾部三分の一のあたりで痛みが軽減するようだといってもらえます。
そこを中心にもう少々、締め続けます。

動診です。

母指の屈曲、握ってもらいます。

痛みはまだでますが、「ちょっと握れるようになった」と喜びの表情です。

続いて、肘井永晃先生の上肢編で紹介されている技の「骨の操法」アレンジ技です。

橈骨の後面、尾部三分の一あたりの筋肉のねじれたような、盛り上がったようになっている部位があります。

この部位を後面から前面方向に押していきます。

ちょうど橈骨をねじまげるような、しなわせるような感じです。

この技の理解は、こんな感じです。

赤ちゃんを抱きかかえて、橈骨が後面方向にねじ曲がってしまった。

だから、それを逆方向、前面方向に橈骨をおしもどすということ。

また、この部位にはさきほどの「嗅ぎタバコ入れ」の筋肉、三つの筋肉が合流する部位でもあり、その筋肉の「ねじれ」を解消するのにも役立つのではなかろうか、と考えています。

これでも、また痛みは減少します。

この段階でもUさんには驚いてもらえます。

「二か月もかかって、なんにも変らなかったですから。
これだけ動くようになっただけでも嬉しいです」とUさん。

それそろ、患部に直接触れていきます。

どうやら長母指外転筋と短母指伸筋が橈骨の茎状突起と触れる部位で痛みが出てるようです。

その二つの筋肉に触れながら「痛くない」方向にねじるようにズラシていきます。

本当にミリ単位のズラシです。そのまま、キープ。癖をつけます。

動診です。母指を握ってもらいます。

「あ~、痛くない。最後のほんのすこしだけです」とUさん。

ヒラメキました。

握って痛みがでるのですから、逆に母指を伸ばしてもらう、外転してもらいます。

もちろん、痛みはでません。

そのポジションから、長母指外転筋と短母指伸筋の腱を痛みがでているその部位めがけて軽い「圧」をかけます。

もう片方の手で橈骨茎状突起から少々頭部の部位に手をふれ、その痛い部位にむけてこちらも軽い「圧」をかけます。

つまり、痛い部位めがけて、尾部からと頭部からと挟み撃ちして「圧」をかけるというものです。

「あ~、ほとんど痛くない」とUさん。

「次の通院はどうしたらいいですか?」とUさん。

「あ~、Uさんは遠いですからね~。もうやり方わかったでしょう?あとは自分でそこそこできると思いますよ。

痛くないことをやってあげると良くなるんですから。そうすればOKですよ。

手に負えなくなったらまたいらしてくださいね~」。

相変わらず、まだまだ、お人好しの私です。