ドケルバン病と腕の筋肉

ドケルバン病の概要

腱鞘炎のなかでもドケルバン病といわれるタイプの腱鞘炎があります。

このような動作、

フィンケルスタイン・テスト(Finkelstein)で手関節の橈側・親指側に痛みが生じます。

この方も、ドケルバン病という診断をうけてご来院いただきましたから、もちろん、この動作、検査で痛みがでます。

この痛みはだいたい二か所で生じます。

①長母指伸筋・短母指伸筋・長母指外転筋で形づけられる、いわゆる「嗅ぎタバコ入れ」の部位の痛みです。

②もう一か所は、橈骨茎状突起(とうこつけいじょうとっき)の痛みです。

この方もフィンケルスタイン・テストで痛みがでますし、

軽く触診しただけでも、この二か所に痛みが生じています。

腱鞘炎はドケルバン病であれ「ばね指」であれ、基本的に手の使い過ぎが原因です。

その手の使い過ぎの動作、作動した筋肉のちがいによって、さまざまな症状がでてきます。

このドケルバン病も同じ動作、フィンケルスタイン・テストの動作で痛みがでて、おなじ部位に痛みを呈していてもその原因は個人差があり、さまざまです。

これまでにも、前腕を構成する骨である、「頭骨」と「尺骨」のねじれからくるドケルバン病の例もありました。

育児をはじめたばかりのお母様にこの例は多いようです。

今回のこの方のドケルバン病は、明らかに筋肉の使い過ぎが原因のドケルバン病のようです。

問診をしていくと

問診をしていくと、この方は看護師さんなのですが、日常の動作のなかに、

患者さんのベッドからの介助の作業が多いことがわかりました。

両手を前に伸ばして、押したり・引いたりの動作のようです。

運動学的に記述すると、

上腕の屈曲・伸展。

また、それにともない前腕の屈曲・伸展も加わります。

そんなことを念頭におきながら、筋肉のコリを探っていきます。

やはり前腕です。

前腕の前面がもうパンパンなのがわかります。

特に、前腕の中央部です。

ちょうどここの深部には腱鞘炎の鍵をにぎる「長母指屈筋」が走行しています。

そして、ドケルバン病の検査であるフィンケルスタイン・テストでは、拇指を握り込みます。

つまり、拇指を屈曲・対立させてから、手首を尺屈します。

長母指屈筋に拘縮があると、手首の尺屈でさらにストレッチがかかり、痛みが出現すると考えられます。

ですから、まずは、この長母指屈筋の整体からです。

少々、可動域制限は解消されますが、まだまだです。

上腕二頭筋に触れます

長母指屈筋の筋肉の連結をだどっていくと、

長母指屈筋ー深指屈筋ー上腕二頭筋

と続きます。

要は、前腕の前面の中央部分をたどっていくだけです。

すると、上腕二頭筋の停止部にコリを触れます。

上腕二頭筋の停止部は橈骨の橈骨粗面です。

ここが、もうゴリゴリです。

整体すると、それは、もう痛がります。

これで、またフィンケルスタイン・テストの可動域は改善されます。

けれどもまだ、100点満点ではありません。

またさらに、上腕二頭筋をさかのぼって触れていきます。

すると、上腕二頭筋のうちでも内側、上腕二頭筋の短頭の筋腹が凝っています。

ここもまた整体すると、痛がります。

この上腕二頭筋の短頭は肩甲骨の烏口突起から始まります。

上腕二頭筋の短頭はなかなかマイナーな筋肉で、普段あまり触診することのない筋肉です。

けれども、この方の臨床を経験してからというもの、私にとって、触診では欠かせないポイントとなっております。

確かに、経絡の流れで肺経の天府・侠白という経穴に相当し、上腕二頭筋の長頭と短頭の筋肉の溝に取穴します。

なるほど、中国3000年の歴史では、ここのポイントにも気づいていたということです。

たいしたものです。

さらにさかのぼります。

そう、上腕二頭筋の短頭の起始部である烏口突起周辺です。

烏口突起周辺に触れる

上腕二頭筋の短頭の起始部である烏口突起周辺と肋骨に触れます。

これが、またゴリゴリで、それはもう痛がります。

「こんなに痛いのは初めてです」というほど、痛がります。

この烏口突起は小胸筋の停止部、

また烏口腕筋の起始部です。

烏口腕筋と上腕二頭筋の短頭は上腕の内側を並んで走行していて、ひとつの筋肉としてとらえることが出来そうです。

この烏口突起と肋骨を整体します。

すると、フィンケルスタイン・テストの動診をしても手首の痛みが消失しました。

ひとつの奇跡の出現です。

ああ、上手くいきました。

左の手首、橈骨の茎状突起の痛みが、こんな鎖骨下の烏口突起と肋骨に張り付いていた筋肉の癒着から発生していたなんて。

この筋肉の連結には大変お勉強となりました。

手首が痛い腱鞘炎といっても、やはり痛い部位が原因ではなく、遠く離れた、鎖骨下まで辿り着かなくては問題は解決しないということです。

また、確かに、看護師さんが患者さんを介助する動作を試みてみますと、確かに、この大胸筋および小胸筋が作動することがわかります。

まだまだ、お仕事をすると、この手首の痛みは再発するのでしょうが、治療のポイントがわかったので完治するに違いありません。