ドケルバン病と前腕の筋肉

ドケルバン病の概略

ありがたいことに、ここ半年ほどの間に、腱鞘炎のなかでもドケルバン病と診断された方のご来院が相次いでおりました。

おかげで、このドケルバン病のメカニズムが自分なりに、それなりに理解でき、それなりの対応ができるようになってきました。

このドケルバン病の病態の原因は、手の長年にわたる疲労、筋肉の拘縮だということです。

けれども、その原因となる筋肉は、一つの筋肉が原因で、この現象がおきるものではなく、

手をとりまく様々な筋肉が、疲労、拘縮してひきおこされる、ということです。

ですから、いわゆる玉ねぎの皮をむいていくように、一枚、一枚、その皮をむいていくと、その下にまた皮があらわれるように、

ひとつひとつの筋肉のコリを解消していくと、またその次に、隠されていた筋肉のコリがあらわれてくる、といったことが繰り替えされることもしばしばです。

そんな臨床をつづけながら、ほぼすべての筋肉のコリが解消された時、このドケルバン病の痛みは出現しなくなります。

なんとも気の長い話です。

やはり私の現在の技量では、三か月の猶予をいただいております。

この三か月の猶予を許していただけた方には、それこそ全力をあげて、このドケルバン病の整体にあたるわけです。

それでは、このドケルバン病の原因となる筋肉は、どの筋肉なのかという問題ですが、

その解答は、

「手の指先から、腕の付け根、肩までの筋肉すべて」

というのが、その答えとなります。

同じドケルバン病という病名でも、あらわれる現象は個人差があり、微妙にみなさんちがうということです。

ただ、ひとつ確実にいえることは、

「上腕二頭筋と腕橈骨筋へのアプローチは欠かせない」ということです。

フィンケルスタイン・テスト(Finkelstein)について

ドケルバン病を鑑別する検査に、フィンケルスタイン・テスト(Finkelstein)があります。

この検査で陽性、痛みが出現すると、ドケルバン病と診断されます。

この検査は、親指を手のひらに握り込み、そのまま手首を小指の方向に曲げてもらい、親指の付け根に痛みが出現するかどうかで判断します。

このフィンケルスタイン・テスト(Finkelstein)は、確かに、そのとおりなわけですが、

親指を握り込んで、手首を小指方向に曲げる際に、

手のひらを「上にむける」のか、

また、手のひらを「垂直にする」のかで、

痛みの出現の仕方がちがう現象が起きてしまいます。

手のひらを「上にむける」のと、

手のひらを「垂直にする」のとで、何がどう違い、どのようなメカニズムが起きてるのかは、まだまだこれからの研究の課題となっております。

いま取り組んでいるドケルバン病の方は、

手のひらを上、水平にして、フィンケルスタイン・テスト(Finkelstein)をおこなうと、比較的痛みの出現は少ないのですが、

てのひらを垂直にして、フィンケルスタイン・テスト(Finkelstein)をおこなうと、痛みが増強するという現象が起こります。

もちろん、ドケルバン病の整体の私にとっての鉄則である、

上腕二頭筋と腕橈骨筋へのアプローチ、

また長母指屈筋の整体をすすめることで、

ずいぶんと症状は改善してきています。

けれども、まだ何かが足りないようです。

一枚、一枚、玉ねぎの皮をむくように、また新しいトリガーポイントを探っていくわけです。

すると、ここです。

長短橈側手根伸筋です。

この写真は、「ボディ・ナビゲーション」(医道の日本社)からとらせていただきました。

右腕の上腕骨外側上顆を起始とする筋肉群をたどっていきながら、ひとつひとつ触れ、フィンケルスタイン・テスト(Finkelstein)を行うことで、ここを特定することができました。

これまでにも、ドケルバン病ですから、いわゆる「嗅ぎタバコ入れ」を構成する筋肉群である、

長母指伸筋・短母指伸筋・長母指外転筋の起始部である、上腕、橈骨に沿って、また、橈骨と尺骨との間の骨間膜は整体してきてはおりました。

まだまだ、探索が不足しておりました。

けれどもこれもまた仕方のないことです。

ひとつひとつ障害となっている筋肉のコリを解消していった結果、やっとたどり着いたということですから。

上腕二頭筋と腕橈骨筋へのアプローチ、

また長母指屈筋の整体をすすめることで、やっと、この長短橈側手根伸筋が浮上してきたということです。

むやみやたらと、訳も分からずに、上腕の前面・後面の筋肉をただ単に揉んでみても、

どの筋肉が原因なのかわからずに、なんとなく治ってしまった、ということもおきかねません。

この過程で良かったのだと、いまの私は思うわけです。

ドケルバン病の整体の見立てが、また一歩前進したものと確信しております。