橋本敬三先生の「操体法の医学」から

臨床医の悩み

我々臨床医の最大の悩みは何であるか。

患者の愁訴と臨床所見との間に、特異的な症候を見出しかねて、的確な診断をつけ難く、したがって、的確な治療を行い難いということであろう。

もちろん諸検査を可能なる限り尽くさねばならぬのであるが、患者の愁訴を無視して、何らの価値なし、ということはできない。

ストレス学説と運動系

本来の自然体、すなわち健康体には、異常感覚はないのである。

何らかの、外界よりの異常刺激があり、人体がこれに反応して、はじめてこれを生ずる。

セリエの表現法をかりていえば、ストレッサーに対して、ストレスをおこしたときに感ずるのである。

ストレスの状態を吟味して、ストレッサーを処理し、要約すればストレスの回復に援助できれば、治療としては理想である。

人は、感覚し、食べて、動き、考え、社交する生物である。

環境の問題、栄養の問題、運動の問題、精神思想の問題、これらは皆、それぞれ、それが異常であればストレッサーとなりうる。

それらのうち、セリエも未だ気がつかず現代医学界にも未だ登場していないストレッサーとストレスとがある。

それは運動系内の力学である。

東洋医学は、そのストレスに気づいており、数千年前に、その処理さえ指示している。

しかし、その記載形式は、運動系という楯の一面を示して、両面をつくしていないことを、私はみるのである。
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ここで、橋本敬三先生は、運動系の力学が人体に及ぼす影響に言及しています。

運動系の力学とは、早い話が、「体の歪み」ということです。

体の歪みが異常感覚、勝訴を引き起こす原因のひとつになりうるのだ、ということを、ここで、指摘しているわけです。