腱鞘炎についての解説です

はじめにドケルバン病を説明します。
鍼灸学校の教科書を引用して説明します。

腱鞘炎のひとつ。
「手関節橈側の橈骨茎状突起部における狭窄性腱鞘炎であり、
この部を通る
短母指伸筋と
長母指外転筋を
使いすぎたために機械的炎症をおこしたものである」

解剖学的姿位で手の平を内転させたときに痛みが生じます。
以前に書いた「嗅ぎタバコ入れ」の部位ににていますが、
そこよりは少々頭部より、橈骨茎状突起に痛みがでるようです。

妊娠中でも腱鞘炎は発症する

40代女性のMさんです。

「妊娠中なのですが、見てもらえますか?」とお電話です。

「どうぞどうぞ、大丈夫ですよ」とこちとら腰痛なんだろうな、
と思って電話をうけますと、

「腱鞘炎なんですけどみてもらえますか」ということです。

鍼灸の教科書をみますと、なるほど、
「手の使用頻度の高い中年以降の女性や妊娠後期および出産直後の女性などに多発する」とあります。

Mさんの場合この妊娠後期に該当するのでしょう。なぜ妊娠後期にも多発するのか、その機序にはふれられていませんが。

以前に書いた「嗅ぎタバコ入れ」の方の成功事例がありますので、まあ、大丈夫だろう、似たようなものさ、というこちらの読みです。

左右両手に痛みがあって動かせないといいます。

フィンケルスタイン・テスト陽性です

ド・ケルバン病の検査法にフィンケルスタイン・テストというのがあります。
要は、手関節を尺屈・内転して痛みがでるかどうかを見るテストです。名前がややこしいわりに、やることは簡単です。

やはり、この動きで痛みがでるといいます。

けれどもおもしろいことに、母指だけをグーして(内転)してもらってもあまり痛みはでないのです。「嗅ぎタバコ入れ」の方の症例とは痛みの部位は近いのですが、少々ちがうようです。「嗅ぎタバコ入れ」の方は母指をグーすると痛みが出ましたから。なんか嫌~な、てこずりそうな予感です。

「これまでの例で背中からアプローチすることで上手くいったことがありましたから、まずは背中からいってみますね」と私。

母指は経絡の流れでいえば「肺経」です。
ですから背中の「肺兪」胸椎3番を狙って胸椎の骨の操法からスタートです。

動診です。
手関節を尺屈・内転してもらいます。

「さっきより少しですけど、動きはいい感じです」とMさん。
嬉しいお言葉です。狙います。2~3度この操法を繰り返します。

「さっきと同じくらいで、あまり変化はないですね」

胸椎3番から下へ、4番、5番と狙って胸椎の操法を試みます。

「あまり変化はないですね」

さあ、これからドツボが始まるわけです。

手の使い過ぎといえば
もちろん上橈尺関節の骨の操法は定番です。

少し尺屈・内転の動きは良くなります。
けれども触診してはまだ痛みが出ます。

「嗅ぎタバコ入れ」の方で成功した技

「嗅ぎタバコ入れ」の方で成功した技を使います。

短母指伸筋と長母指外転筋の腱になっている部位
をズラシてみます。

少し尺屈・内転の動きは良くなります。
けれども触診してはまだ痛みが出ます。

母指と手関節を痛くない外転位にもっていき
「嗅ぎタバコ入れ」の部位に「圧」をかけていきます。

これであの時は良くなったんだよな~ブツブツ、、、。

少し尺屈・内転の動きは良くなります。
けれども触診してはまだ痛みが出ます。

ソウカ、そういえば、以前に手関節の三軸で
ド・ケルバン病が成功したことがあったなと思いだし、手関節三軸です。

手関節の三軸操体法です

少し尺屈・内転の動きは良くなります。
けれども触診してはまだ痛みが出ます。

「ずいぶん手の動きはよくなってきて
動かせるようにはなってきたんですが、
まだ触れば痛みがでます」とMさん。

ドツボにはまってしまったからにはもうあとには引けません。
まだやります。

もう一度、上橈尺関節の骨の操法を試みます。
締める部位をかえながら再度チャレンジしてみます。

すると上橈尺関節から尾部に少々下がった部位をしめると
母指がス~ッと尺屈・内転する動きをみせます。

「お!これはしめたものだ。やっとみつかったぞ!」とばかりに続けます。

確かに可動域は先程より良くなっています。

けれども触れた時の痛みはまだ出ます。

ヒラメキました。
上橈尺関節の骨の操法は試みていますが、
下橈尺関節の骨の操法は試していません。

下橈尺関節の骨の操法

痛みの出ている橈骨茎状突起のすぐ頭方を触れて締めてみます。

痛みのでている部位のすぐソバですから締められて痛みがでるのか?と思いきや、大丈夫、締められても痛みはでません。やってみます。

下橈尺関節をしめながら、痛みの出る橈骨茎状突起にもう片方の手で触れてみます。

「痛いですか~」

「いえ、大丈夫。痛くありません」

やった!やっとみつかりました。

どうやら、下橈尺関節がゆるんだことから、ド・ケルバンの症状が出ていたようです。

うまくいくと例のごとく解説をしてしまいます。

「ですからあとはご主人にいまやったように手首のところを締めてもらえば、この状態をキープできると思いますよ。あとは、自宅でやってみて下さいね。できることは自宅でやるのが一番いいんですから」

なんとか乗り切ることができました。