これは、大変てこずった症例です。
みなさん、その治療法を推理してみてください。

中学3年のNくんです。
陸上部に所属していて、明後日の中学陸上の県大会に出場するそうです。
成績上位者はもちろん東北大会に駒を進めることができます。
種目は400メートルとハードルということです。

「東北大会を狙っているんです」とお母さん。

先週から左膝に痛みが出て走ることができなくなったと、いいます。
「明後日の県大会に出れるようにしてください」とお願いされます、、、。

痛みの部位は、左膝、お皿(膝蓋骨)の左やや下方、腓骨頭と脛骨粗面の中間あたりの骨ばった部位です。外側顆といったあたりです。触れると痛みが出ます。

走ると、足を後ろに蹴り上げた時に、膝のその部位に痛みが出て、「走ることができない」とNくん。

なんとかしてあげなくてはなりません。

膝の痛みは、太ももの筋肉の問題、また、ふくらはぎの筋肉の問題、その筋肉の「ハリ」をリリースしてあげると良い結果がでるケースが多いものです。

「いろいろやってみますね。やってみるたびに、実際にうちのお店の前の歩道を走ってもらいます。それで、痛みがでるか、でないかで判断してもらいます」と提案します。

はじめに、膝倒しを動診をしてみます。たまに、骨盤を調整することで、膝の痛みがとれるケースがあるからです。

けれども、さすが、中学3年生。膝倒しでは、違和感はまったくでません。骨盤矯正はパスします。

それでは、やはり膝にアプローチしていきます。

オーソドックスに膝の骨の操法からです。
ジワ~ッと押し込みます。
さらに、左足を伸ばしてもらい、膝に「圧」を加えてみます。

まず、軽くテストです。走ってもらいます。
「お~っ、走れるじゃん。よしよし、、、。あ~失速」。
Nくん。顔をしかめながら走るのをやめてしまいます。

「あ~、まだまだ、技はあるから。次いきますね!」

腓骨頭と脛骨の圧迫、骨の操法です。
テスト。駄目です。

うつ伏せにして、膝を屈曲していき、大腿四頭筋の筋肉のハリをみます。
踵はお尻に楽々つきます。
大腿四頭筋のハリではないようです。
けれども無駄と知りつつ、大腿四頭筋のリリースを試みます。

テスト。駄目です。

仰向けになったもらい、膝を立て、半腱様筋・半膜様筋の腱と大腿二頭筋の腱を左右にひろげる筋肉リリースを試みます。

テスト。駄目です。

腓腹筋を私の足でもみほぐします。
駄目です。

ま~ぁ、いろいろやったんです。
駄目です。

こうなれば、駄目でもともと、「鍼」の出番です。

「鍼は打ったことはありますか?こういったケースでは鍼が効くことが良くありますので、鍼を打たせてもらいますよ」と一言ことわります。

「鍼」を打つときめたら、可能性のある筋肉にばしばし打っていきます。

大腿四頭筋の長頭の筋腹。外側広筋の筋腹。ツボを使って胃経の梁丘(りょうきゅう)。脾経の血海(けっかい)。さらには、局所狙いで痛みのある部位に斜刺で打っていきます。

駄目です。

お母さんが「以前、すねの剥離骨折をしたことがあるので、今回も同じケースなのでしょうか?」とたずねます。

「違うと思いますよ」と答えたものの、なぜこうなるのか、いまだによくわからない私。

ここで諦めてしまうか?「現在の私では手に負えないので、整形外科を受診してみてください」という負けセリフが脳裏をかすめます。

もう一度、スタートにもどります。

左膝の圧痛部位に手を触れながら、太もも、下肢、あちこち触診していきます。痛みの消える部位を探すのです。

最初にやったはずの腓骨頭をもう一度締めて、圧痛部位をさわります。

「痛くありません」とNくん。ああ、そうだったのか!

ジワッ~と圧をかけていきます。

腓骨頭から手をはなして、圧痛部位に触れると

「痛い!」

腓骨と脛骨を圧迫するだけでは、この関節はくっついてくれないということです。なにかが、脛骨と腓骨とを引き離すような作用をしているにちがいありません。

腓骨頭にはもちろん腓骨筋が付着します。腓骨筋と腓腹筋は筋肉が連結しています。腓腹筋は腱となってアキレス腱となり、踵に付着します。

腓腹筋をたどりアキレス腱を触診、もんでいきます。

「あった!」。思わず、声に出さずに叫びました。

左アキレス腱の両側にゴロリとした、ビー玉くらいのかなり大きなコリがありました。このコリをとる手立てがその場では思いつきません。、「ちょっと痛いよ~」といいながらもんでいきます。

テスト。走ってもらいます。

「さっきより痛くありません」。やっと好感触です。

このコリをとればいいんだ!光がみえました。

このアキレス腱のコリに触れながら、足首を内反したり外反したり、内転したり外転したり。コリの感触が緩むポイントをさがします。

ついでに、足趾をぎゅっと締めてみます。外反母趾へのアプローチです。

「ああ、これだ!」。コリが緩む感触が伝わってきます。

中足骨・中足指節関節をしめていきます。
さらにキネシオテープでテーピングを施します。

さあ、テストです。

「大丈夫です。痛くありません!」。
やっとたどりつきました。

要した時間80分!

あとはテーピングの貼り方を指導して終わりにします。

「走りすぎて足がひらいてしまい、その負担がアキレス腱、そして膝まできていたのだと思います」と説明します。

アナトミートレイン的にはこうなるのでしょうか?

中足骨と中足骨とをむすびつけている深横中足靭帯が走りすぎたせいで伸びきってしまった。それにともない足底腱膜にも負荷がかかり、足底腱膜から踵。踵からアキレス腱。そのアキレス腱の両わきに大きなコリが生じ。その負荷が腓腹筋を伝い腓骨頭。その影響で例の圧痛部位に痛みが生じていたのではなかろうか?

と、いうことです。

いや~、大変でした。患部から遠いところから攻めるとはこいうことなのでしょう!

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