続いて50代の女性Tさんです。
介護の仕事をもう10年ほどなさっています。

「2週間ほどまえに肩がギックリ腰になったように右肩がギクッとなりまして、
いくらかよくなったと思っていたら、一週間前にまたギクッとなりまして」と言います。

それからもう肩が痛くて動かなくなったといいます。
総合病院の整形外科の診察を受けたところ、
レントゲンの検査で
「石灰沈着がみられる」と診断をうけてきました。

処方は痛みどめの服薬と湿布の処方ということでした。

私の技術では三か月は要すること、
患側の右肩にはあまりアプローチしないことを確認します。

「右肩が痛いのは承知していますけれども
変に思われるかもしれませんが、右肩にはアプローチしませんよ。
最後にちょっとですかね」と伝えます。

動診です。
肩関節は
前方挙上(屈曲)は90度。
横上げ(外転)は水平までいかず80度です。

立位での動診です。
左右ねじりが45度ほどできつさが出ます。
また左側屈、後屈でも窮屈感が
右腰部にでます。

「しめしめ」。あらゆる動診で窮屈感がでます。
「こんな風な動きはしたことがなかったでしょう?
こんなわずかな動きでも窮屈感がでるんですよ。
腰も背中もきつそうですね。
こんなところから五十肩になっていくんですよ」

さらに首の動診です。
左回旋がきつく
右側屈はほんのわずかしか動きません。
右側屈で右の首筋から肩にかけてツッパリ感がでます。

「オヤオヤ、首は全然動かないじゃないですか!」

「背中のきつい感じ、息苦しい感じはもうズッと前からなんです」とTさん。

立位の三軸から始めます。
右側屈が「楽」なのでそれを一軸に設定します。

立位での左右のねじりが少しですが改善してきました。

さらに座位の三軸にいってみます。
座位の三軸では、背中のキツイ感じを訴えていましたので
その部位、胸椎の7番あたりでしょうか、
その部位を狙ったピンポイント胸椎三軸を仕掛けます。

まだまだ右肩に変化はありません。

手抜きi-positionです。
右ねじりができるようになっていたので
体幹を右にねじってもらいながらi-positionをかけていきます。

伸びてくる左足を左手で受け空いている右手で
キツイ感じがでている背中に皮膚の操法をそえます。
そんな応用がきくところがこのi-positionの魅力です。

体幹も気持ちのいいように、ベッドに寝そべるように前屈していってもらいます。皮膚の操法を添えながら。

な~んとなく右肩の前方挙上が良くなってきたような気がします。

さ~て、それでは左肩からのアプローチを始めます。

左肩を外転90度に設定し
内旋・外旋を調べます。
内旋できつさがでましたので
内旋位のきついポジションから外旋してもらいます。
さらに左肩を伸ばしたり、引いたりしてもらい
「快」を尋ねます。
「伸ばし」が快です。

これ効きました。前方挙上が100度まできました。
よしよしです。反対側からでも大丈夫成果はだせますね。

ま~、あとは、あれやこれやおもいつくままやりはじめたわけです。
ご想像ください。

さて、いよいよ右肩の患側にアプローチをはじめます。

上橈尺関節の締めはやはり変化がでます。
5度ほど挙上が改善しました。

肘関節の「雑巾しぼり」もまあまあです。

興味ぶかかったのは、
肘関節の「雑巾しぼり」をしながら
上腕を挙上していくと
なんと!あがっていくではありませんか!
調子にのって
前腕をねじり、空いたもう片方の手で
肘関節の後面、少々頭部よりの部位、
そうですね「天井(てんせい)」に皮膚の操法をかけたんですね。

すると、スルスルと腕が上がっていくではないですか!
「おお~、やったぜ決まったぜ!
この五十肩の原因筋は上腕三頭筋だったのか!
こんなアプローチもあったんだな~」と喜んで
座位になってもらって前方挙上してもらいますと、
なんと!さっきのまま、100度のあたりで止まっているのでした。
「がっかり」です。でも、まあ一瞬ですが、喜びましたね。

まあ、そんなところで治療はやめにしておきました。

これまでの例ですと、
前方挙上の方があがりやすくて
横上げ・外転にてこずるのが通例でしたので
動診は前方挙上だけで進めてきたのですが、
最後ですのでどちらも確認します。

前方挙上は110度ほど、20度挙上アップです。

横上げ・外転してみます。
「おお~、挙がるじゃないですか!」
真横からの挙上ではまだ多少窮屈感はありますが
少々前方位からの挙上では挙がります。

残念なのは、動診アフターに手を抜いてしまったため
どの操法が効いて挙がったのかがわからないことです。

「こんな感じでいらした時よりはずいぶん楽になりましたので
今日はここまでにしておきますよ。
ここまで良くなったんですから早い時期にもう一度いらした方が良いと思いますよ」と気おくれすることなく、提案でき、もちろん予約も頂戴できました。

受付のところまでお見送りにいきますと
受付カウンターに「骨盤ベルト」と「テーピングテープ」が置いてあるのに
Tさんが気づきました。

「テーピングをすると、楽になるかしら」といいますので、
「ああ、いいよ、いいよ、やってあげる」とまたまた治療室へ。

三角筋にテーピングをしてあげます。

「腕の重くて苦しい感じが楽になりました」とTさん。
可動域の変化はありませんでしたがね。

その時、なんとなく肩に手がいったんですね。
「棘下筋やってみるか~」みたいな感じです。

肩甲骨は上部からちょっと下がったところに横に走るでっぱり
「肩甲棘」があるわけです。
この「肩甲棘」の上に位置するのが棘上筋。
下に位置するのが棘下筋です。

この棘下筋を外方にたどっていって上腕骨と接する手前のあたりの
棘下筋に私の親指がひきよせられていったのです。

左右の拇指で棘下筋に触れ、残りの4指は自然と肩の前方、鎖骨に触れるわけです。そのまま、ただ両手を脊柱にむけて寄せてみました。

「おお、これってコ~ン先生の”万力操法”じゃないか!」と喜びながら。

すると
「ああ、これ気持ちいい」とKさんの天の声です。

なるほどこの「棘下筋・万力操法」をやりますと、
猫背気味の背中が胸がはるようにスッと伸びてきます。

どれどれ前方挙上の動診です。

「おお!挙がる!」
先程より10度ほど上がります。

続行です。

「おお!挙がる!」
先程より10度ほど上がります。

また続行です。

「おお!挙がる!」
先程より10度ほど上がります。

調子に乗って4回繰り返しました。

「おお!挙がった!」

180度とはいいませんが
170度まではいきました!

「今度いらした時はこれ攻めてみますからね!」

「棘下筋・万力操法」だけのおかげとはいいませんが
まずは目出度し目出度しです。

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