関節可動域制限というのは、必ず、原因があるものだ、と信じています。
もし、その関節可動域を改善することができないのであれば、
それは、私の勉強不足以外のなにものでもありません。
そして、また、この関節可動域制限というものは、必ず、
解剖学的、運動学的、生理学的に説明がつくはずだ、という確信があります。
逆をいえば、解剖学的、運動学的、生理学的に説明できない治療方法は信用しない、という決意表明でもあります。
すべての関節可動域制限を解決できたなんて、そんなことは、まだまだ先の話です。
まだまだ、理解できない関節可動域制限はたくさんあります。
そのなかでも、私の最重要課題は、四十肩・五十肩における「結帯動作」でした。
やっと、自分なりの解決にたどりつくことができましたので、ここにひとつの成果をまとめてみたいと思います。
「なんだ、そんなことか。もう知っているよ」という先輩諸氏もおられることと思われます。
まあ、後からきたものの研究発表だと思って、お付き合いください。
また、皆様に臨床で、検証していただければ、これにまさる幸せはありません。
よろしくお願いいたします。
結帯動作の原因筋肉はこれだ!
結論を先に書いてしまいましょう。
私がたどりついた、結帯動作の原因筋肉は、これです。
「上腕二頭筋」です。
上腕二頭筋。力こぶの筋肉です。触れることも容易です。
これまでの、臨床でも不思議に思っていました。
これだけ大きくて、働き者の筋肉でありながら、その障害に遭遇したためしがないこと。
また、上腕二頭筋が原因と思われる疾患にであったことがなかったこと。
「こんなに、でかいのに、悪さをしない、変な筋肉だな~」とね。
ところが、どっこい、私を悩ませ続けていた「結帯動作」不全という悪さをしていたのです。
結帯動作について
結帯動作についておさらいしてみます。
結帯動作。帯を締める動作ということです。
腕をうしろにもっていって、さらに、背中の方へ、ひょいと手を上げる動作です。
腕を後ろに持っていく。上腕の伸展です。
さらに、ひょい、と肘を曲げます。前腕の「回内」の動きがはいります。
結帯動作で特に問題になるのは、この前腕の「回内」の動作が上手くいかないということです。
前腕を「回内」すると、上腕の近位、上腕骨頭前面に痛みや「突っ張り感」が出現してしまいます。
この可動域制限が、なぜおこるのかが長年の解決できない疑問でした。
上腕二頭筋について
ついでに上腕二頭筋についてもおさらいしてみます。
上腕二頭筋は、二つの起始部をもちます。
ひとつは、肩甲骨の関節上結節です。(結節間溝につくのではありません。誤解しませんように)
もうひとつは、烏口突起につきます。
これは、興味深いことです。
結帯動作不全の方は、結帯動作をしていくと、苦しくなり、上体が前にまがっていくものです。
肩甲骨が前方に巻いていくと表現してもいいでしょう。
この現象は上腕二頭筋が肩甲骨の烏口突起に付着しているため、収縮して、前方に巻き込まれるような動作がひきおこされたためだともいえるにちがいありません。
そして、この上腕二頭筋の働きが、
肘関節の屈曲と、
前腕の回外(外ねじり)ということです。
ここにすでに、回答は示されていたわけです。
「前腕を回外する!」と。
上腕二頭筋が拘縮して、作動不全がひきおこされると、
前腕は回外したまま拘縮し、作動できなくなるにちがいありません。
ですから、結帯動作で、回内しようとしても、上腕二頭筋の拘縮のせいで回外したまま、邪魔をして、回内できなくなると考えることができそうです。
こんな例がありました
このことに気づいてから、こんな患者さんがこられました。
主訴は、腱鞘炎ということだったのですが、前腕のほかにも、上腕、肩甲骨まわりも軽く触診していきます。
問診の段階で、運送屋さんで働いていて、一日に、12キロほどの「水」の容器を100個も200個も持ち運ぶのだそうです。
多い日には300個という日もあるのだそうです。その作業のせいで、グーのしすぎで、腱鞘炎を発症したのだと、推測できました。
さらに、上腕に触れますと、上腕二頭筋がもう、パンパンにはっているわけです。
私の中では、上腕二頭筋が凝ると、結帯動作ができないはずだ、という仮説ができあがっていましたので、
結帯動作の動診をしてみます。
ピンポンでした。
やはり、結帯動作ができません。
聞くと、「ずいぶんまえから、腕が後ろにまわせなくなっていた」といいます。
そこで、上腕二頭筋にアプローチしますと、
やはり、結帯動作を改善することができました。
上腕二頭筋の触診のむつかしさ
これまで、なぜ、上腕二頭筋のコリに気づかなかったのでしょうか?
ひとつにはこの筋肉の特徴にあるようです。
だれでも触れることができる分かりやすい筋肉なのですが、
普通に触ったのでは、この筋肉のコリに気づくことができません。
特に、肘関節をすこしでも屈曲位にすると、この筋肉は緩んでしまい、そのコリをみつけることはほとんどできなくなります。
では、この上腕二頭筋のコリを現れさせるにはどうしたらよいのでしょうか。
肘関節を完全伸展位にすることで、上腕二頭筋のコリに触診することができるようになります。
肘関節の完全伸展位からのリリースを試みることで、上腕二頭筋のコリを和やらげることが可能になります。
また、コリをみつけてから、そのコリにふれながらの「ストレッチ操体」は有効な手技となります。
筋肉の連結をみていきます
さらに上腕二頭筋の筋肉の連結をみていきます。
私の解剖学のバイブル「骨格筋の形と触察法」
によると、
上腕二頭筋は「円回内筋」とも筋肉が連結しているのです。
上腕二頭筋は「回外」する筋肉です。
「回外」する上腕二頭筋がその正反対の動き、「回内」する筋肉、「円回内筋」と連結しているのです。
これは、どういうことかというと、
上腕二頭筋の筋拘縮があるだけで、円回内筋の作動にも影響を与えるに違いないということです。
上腕二頭筋のコリが原因で円回内筋が十分に作動できなくなる可能性があるということです。
これまでのアプローチ
これまでにも結帯動作についてレポートを書いてきました。
「四十肩・五十肩で腕が後ろにまわらない」を参照してください。
このレポートは、前腕の回内・回外に焦点を定めたものでした。
このレポートも決して的をはずしていたわけではありませんでした。
けれども、まだ、根本的な原因には、まだ何かが足りませんでした。
このレポートを書いた後も、「まだ何かが足りない」と考え続けてきました。
この、回内・回外を制限している根本原因が上腕二頭筋にちがいない、
という結論にやっと、私はたどりつつことができました。
今後は、この仮説を臨床で検証していくことです。
そして、この仮説をより確かなものにしていくことに努めていきたいと考えております。
臨床に携わっているみなさまも、この仮説を参考にしながら、
結帯動作の可動域制限の問題を検証していただければ、
ありがたい限りです。
よろしくご検証ください。