難航する四十肩・五十肩
難航する四十肩・五十肩の患者さんの整体を進めてきました。
けれども、やはり、何かが足りないようです。
肩関節の可動域が改善されません。
患者さんに同意してもらい、私の整体の先生である、仙台操体医学院の今昭宏先生と今貴史先生に診てもらうことにしました。
もちろん私も同行させていただきました。
その整体をつぶさに見学させていただき、私の技術的に足りない部分、また私が見落としているポイントを教えていただくために。
私の勉強のために、このような場を快諾していただいた患者さん、また今昭宏先生と今貴史先生には心から感謝申し上げます。
それでは、この日の臨床のレポートです。
四十肩・五十肩発症からこれまでの概要
現在の日時は、2018年7月です。
この患者さん、以下Mさんと記します、昨年2017年12月に四十肩・五十肩を発症し、腕が上がらなくなりました。
もちろん、最初は地元の整形外科を受診し、レントゲン検査を受け、「石灰沈着」はみられない、ということで、いわゆる四十肩・五十肩と診断され、痛み止めと湿布を処方され、様子をみていましたが、快方に向かわないため、調べて当院「盛岡せんぼくバランス治療院」に2018年の3月にご来院いただきました。
Mさんは、岩手県有数のリゾート施設で働いていて、その洗浄室で洗い場、食器洗いを担当しています。
このリゾート施設、多数の外国人観光客でにぎわっていて、多い時には一日に1000人もの宿泊客でいっぱいになるのだそうです。
一日に1000人も!
その食器の数を想像しただけで、目がくらみそうです。
お話を伺っていて、この四十肩・五十肩の原因は、この仕事の動作の積み重ねに違いなかろうと判断しました。
前かがみの動作が続いても肩は上がらなくなります。
重い物をもっても肩は上がらなくなります。
この四十肩・五十肩の原因はなんとなく想像はついても、なかなかその整体は上手くいきません。
肩関節の動き、可動域が改善してきません。
そう、もう4か月も!
私の現在の力量では何かが足りないということで、今回、仙台操体医学院にお連れして、今昭宏先生と今貴史先生の判断を仰ぐことにしました。
今昭宏先生と今貴史先生の整体に入る前に、いま記したようなことを、問診の段階で、Mさん本人からお話していただきました。
まずは可動域の確認です
肩関節の屈曲です。
肩関節の伸展です。
肩関節の外転です。
結帯動作です。
このようにすべての肩関節の動きに可動域制限がかかっています。
4か月も通っていただいて、このとおりです。
悔しいったらありません。
つくづく力不足を実感致しました。
さて臨床のはじまりです。
「三軸操体法でもやろうかな、と思っていたんだけど」とは後からの今昭宏先生の述懐ですが、動きをつかった操法では不十分と判断したのでしょう、触診、触れていきます。
鎖骨下および烏口突起周辺。
体幹後面の肩関節周辺、棘下筋・小円筋。
また首筋、肩甲挙筋の起始部。
確認した後で、
右手で大胸筋・三角筋に触れ、肩関節に「圧」をかけながら、上腕を上げていく操法を試みます。
続いて、こちら、脇の下、肩甲下筋・広背筋を上にあげながら、圧をかけていきます。
間接的には、小円筋・棘下筋も上げることになります。
これら、腋窩の後面の筋肉群が下がっていることを想定して、実際、左肩・肩甲骨は極端に下がっているわけですが、上にあげていく操法といえそうです。
さらに、体幹前面、小胸筋を触診・「剥がし」です。
三角筋に触れ、そのコリを確認しながら、前後左右にユラユラとゆすって動かします。
そのまま、「骨の操法」にもっていき、肩関節に圧をかけていきます。
ここまでが第一ラウンド。
今先生「やっぱり、足からやらなくっちゃ」ということで、貴史先生に足からの触診・操体をゆだねます。
四十肩・五十肩を足から整体する
Mさん、四十肩・五十肩のほかにも、膝の調子が悪くて、痛みがあったり、膝が曲がらなかったりというのではないのですが、「足の上りが悪い感じ」があったり、横座りから立ち上がる時、膝の内側に痛みが出たりするといいます。
足を整体して、四十肩・五十肩が治ったら、それもまた愉快ではないですか。
貴史先生、左右の足関節の背屈・底屈の自力での動診を行い、下肢を触診し、ふくらはぎ「剥がし」です。
右手で脛骨の内側縁に触れ、そこから外側方向に「剥がし」ます。
ここで肩関節の伸展の動診です。
なんとなく、ちょっと、動きがでてきたように映ります。
四十肩・五十肩を指から整体する
下肢のつぎは、手、指から整体します。
第3指の末節骨から筋肉を「剥がし」ます。
第4指も剥がします。
この第4指の「剥がし」に、Mさんかなり痛がります。
この第4指の剥がしを行いますと、興味深い現象、連動が起きることに気づきました。
Mさん、左肩が下がっているのですが、この第4指の剥がしを行いますと、左肩がさらに下がる動きをみせました。
この第4指のコリが左肩までも引っ張り、下げているのかもしれません。
そんなことを予感させる第4指の「剥がし」です。
この現象を一緒に見ていた今先生、ふと、鎖骨を胸骨の中心にもどす、「骨の操法」を行います。
これが、左右の鎖骨の位置の確認です。
「左の鎖骨が外にズレてるよ」と指摘します。
さらに今先生、気になったのでしょう、左の腸骨稜に触れます。
「ほら、硬くて指が入らないよ」といって、ここもまた「剥がし」ます。
今先生、貴史先生入り乱れての、「ひらめき操体」がはじまります。
貴史先生、三角筋の停止部に触れながら、皮膚・筋膜・筋筋膜・骨膜のゆらゆら、もみもみ「剥がし」を始めます。
こちらも同じように「剥がし」ですが、触れている部位から、三角筋の前部線維・中部線維・後部線維の境界の区分け、癒着の解消を狙っているように思われます。
この操法を受けているとMさん、「ああ、気持ちいい」と感想をもらします。
いい感じ、筋肉の癒着がとけてきているようです。
ひらめき操体のオンパレードです
再び足にもどり、左足の膝裏のコリを教えていただきます(これは写真がありません)。
膝裏ではなく、もっと上、大腿骨の裏側のコリを今先生は指摘します。
「ここだよ」と教えてもらうのですが、まだまだ、私では触れることができません。
現場にもどってからの練習課題です。
ここから、体幹の後面、肩関節の後ろ、腋窩の後ろに触れ、
ここに触れると、広背筋・肩甲下筋・小円筋・棘下筋に触れ、上腕・肩関節を上にあげることができるようになります。
そして、Mさんに腕を下げるように、体重をかけてくるように指示します。
すると、肩関節に「圧」がかかり、結果として、肩関節のポジションを上にあげることができます。
ここから今先生、動きの操法を繰り出します。
前腕に触れながら、回内・回外、それにつれて、上腕も内旋・外旋するわけですが、自力で前腕・上腕をねじってもらい、その「快」を聞きます。
前腕「回内」・上腕「内旋」が「快」であることがわかりました。
ここからさらに、肩関節を下に下げたり、自分の方に引いてもらい、その「快」を尋ねます。
すると、自分の方に「引く」方が「快」だといいます。
前腕「回内」・上腕「内旋」から、肩関節を自分のほうに引いてもらいます。
動きと「圧」の合わせ技、「快高圧操法」です。
ここまでは、前腕に触れての操法だったわけですが、今度は上腕に触れて同じ操法を繰り出します。
こうすることで、前腕に触れての「快高圧操法」よりも、よりダイレクトに肩関節に「快高圧操法」をかけることができます。
肩関節をとりまく周辺の筋肉群のトリガーが原因となる、肩関節の可動域不全はおきますが、
それとはまた別に肩関節の内部、関節包の内部、上腕骨頭と肩甲骨の関節窩の間が癒着してしまい、肩関節が動かないことも考えられます。
この上腕骨に触れながらの「快高圧操法」はそのこと、関節の内部の癒着を「剥がす」狙いの操法のように私には映りました。
ここまできて、さあ、動診・確認です。
屈曲・伸展ともに、ずいぶんと動きがでてきました。
今先生と貴史先生の合わせ技の成果です。
ありがとうございました。
さらにオプションです
ここまでが、仙台操体医学院の中央臨床ベッドでおこなわれた、臨床の経過です。
その後、個別に操法の練習となりました。
私とMさんとが軽く練習していると、今先生がさらに先程の続きを始めて下さいました。
前腕後面の総指伸筋のコリ「剥がし」です。
尺骨から剥がしていきます。
その時、尺骨から外に剥がすのが「快」なのか、内に剥がすのが「快」なのかをきいて剥がします。
さらにここを触れながら、手関節の掌屈しながら、さらに手関節・前腕を回内してもらいます。
すると、この総指伸筋にストレッチがかかり、マイオモーション・テクニックのできあがりとなります。
マイオモーション・テクニックのつながりで、棘下筋にマイオモーション・テクニックです。
そして、最後は、「手あて操法」。
ただ肩関節に触れているだけです。
これまた「気持ちいい」とMさんに言ってもらえます。
これで、またまた肩関節の癒着がとけていきますように!
そう祈りながら。
ありがとうございます
ここまで、今先生と貴史先生のこの日の操法のすべてをレポートさせていただきました。
操法の合間には、「肩はもう疲れて動きたがっていないんだよ」ということをたびたびMさんに伝えておりました。
いまは、休ませてあげる時期なんだということを。
ああ、そうか、と思い当たりました。
よく耳にする話ですが、「四十肩・五十肩は1~2年もほうっておけば、知らないうちに治ってします」という話です。
このことは、1~2年も痛いから、動かないから、いたわって休ませてあげたから、動くようになったんだ、ということに。
これを痛いまま、動かないままに、使い続けていたら、やはり、その肩は治ることはなく、さらに悪化することでしょう。
1年も2年もいたわってあげたから治ったにちがいありません。
その治る時間を短くしてあげるお手伝いを私たちはしてあげるのでしょう。
このような臨床を披露していただいた今先生と貴史先生には、あらためてお礼申し上げます。