橋本敬三先生の「操体法の医学」から、「ダイナミックな診療の提唱」をご紹介します。
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目にふれない医学の立場

現在研究が行われつつあるのかも知れないが、表面あまり目にふれない医学の一つの立場について大方の注意を喚起したい。

生命の原基は細胞に違いないが、人類は骨格を基礎体形とする生物である。

ゆえにその解剖学が精密に研究されていると同様に、骨格の動静両面における生理学、」病理学、さらに進んで治療学が研究されなければならないものと思う。

一般臨床医学家はこの点に如何なる関心をもっておられるであろうか。

骨格の異常を整形外科の専門畑と、かたづけてしまうのは惜しいことである。

四肢身体と全体との関係

首から上の疾病、即精神病、五感器、眼、耳、舌、鼻および頭部感覚と骨格との間の関係について、吾人を指導する文献がどのくらいあるであろうか。

下って体幹領域にある内臓器官と骨格との関係、これとても明確なるものを、さらに四肢身体と全体との関係についても、自分は一臨床医として学者の指導を求めたい。

疾病というものは

疾病というものは、平衡を失った生態であるが、その平衡の破綻はどこからくるのであるか。

内因を培った場に、外からのダイナミックな変化を与えられて怒る場合が甚だ多いと思われる。

ゆえに上工は未病を治すという言は、名医は内臓諸器官が病変を起こさぬうちに、ダイナミックなアンバランスを調整して疾病の成立を未然に防ぐ、という翻訳が成り立つ。

東洋医学は

東洋医学は、この技術に鍼灸、按摩、導引を用いた。

投薬の方法も、症候群のダイナミックな把握を指示しているのであるが、物療的には、その負荷点を経験的な刺激点(これを穴、ツボという)として選んだのである。

しかしながら負荷点を生ずるダイナミックな説明は未だこれを示しておらぬ。

ダイナミックな観点に立つ診療

この観点に立って患者をみる場合、通常まず一定の安楽な体位をとらしめ、静的に全身平衡を前後左右対称的にみる。

次に、各主要関筋の運動を自他両動について試みて、その方向と角度を難易の差によってみる。

かくして不正個所の連関を発見し、矯正を試みる時、頭部および上体の異常感覚が足の運動により、また肩背胸部の異常感が指の矯正運動により、瞬時にして回復することがしばしばある。

体表感覚と内臓異常との関係は、自律神経の外科として畏友京大の木村忠司助教授が熱心に探究の歩を進めておられるのであるが、感覚ばかりでなく、運動機能もよく回復するのをみる。

東洋医学ではもちろん物療によって成立した疾病の治癒も試みて成果を確認しており、最近仏国では鍼灸の研究が一部で盛んに行われているとも聞き及ぶ次第であるが、わが医界においても、ダイナミックな観点に立つ診療がこれに一歩先んじたいものである。